国際資格と技術倫理

国際資格と技術倫理

技術者の業務には、資格が必要なものとそうでないものがある。 この資格認定制度は国によってまちまちである。 しかし国際化が進んでくると、国ごとにまちまちな制度では不都合がでてくる。
APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation)では、 技術者資格の相互承認プロジェクト、 APECエンジニア相互承認プロジェクトをスタートさせている。 2000年6月には オーストラリア、カナダ、香港、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド という7つの国と地域が、 技術者資格の実質的同等性を示すために満たすべき要件と 免許交付手続き簡略化からなる「APECエンジニアフレームワーク」に合意した。 当面、土木、構造、地盤、環境、機械、電気、経営工学、鉱山、化学の9分野について 相互承認を行う。 我が国でこれに対応する資格は、 技術士 および一級建築士(構造分野)である。
APECエンジニアの資格要件の一つに、 自国(地域)および相手国(地域)の専門職行動規程(codes of professional conduct) の遵守があげられている。 技術者倫理を前面に掲げるのは世界的な要求なのである。
日本の技術士法もAPECエンジニア相互承認プロジェクトを視野に入れながら 2000年4月に一部改正された。 次の項目が盛り込まれている。
  1. 技術者が社会や公益に対する責任を企業等の活動の前提とする高い職業倫理を 備えること
  2. 技術者資格の国際的な相互承認へ対応すること
  3. 質が高く、十分な数の技術者の育成、確保が重要であること
  4. 有資格の技術者の普及が必要であること
  5. 技術士の数の増加を図ること
我が国の技術者も、技術士という資格を得るなら「技術倫理」について しっかりした倫理観を備えなければならない。
さて、このような技術者の資格認定制度は教育体系と密接な関係を持っている。 米国には PE(professional engineer) という資格制度がある。 細かくは州によって異なるが、 大学のエンジニアリングプログラム修了が第一の要件となる。 そして第一次試験に合格後、4年の実務経験を積み、第二次試験に合格すれば PEとして働くことができる。 我が国の技術士法もほぼ同様であるが、一つ大きな違いがあった。 それは第一の要件である大学のエンジニアリングプログラムである。 米国ではこれは第三者による評価を受け、品質が確認されていることが望ましいと される。 そのための機関として ABETがある。
我が国でも大学の教育の質について評価する制度がないわけではない。 たとえば大学を設置するときは文部科学省の 大学設置・学校法人審議会 の審査を受けなければならず、また設置後も適宜審査が行われる。 第三者による審査としては、 (財)大学基準協会によるものがある。 さらに国立大学の法人化をひかえ、 大学評価・学位授与機構 による第三者評価も始まっている。
従来の大学の審査や評価は、設備や教員の質などが中心であり、 教育カリキュラムにまで立ち入った検討は不十分であった。 技術者の資格の国際的相互承認では、何を教えられたかが大切である。 すなわち、教育プログラムが技術者を育てるのにふさわしいものとなっているか どうかが問題である。 これを踏まえ、アメリカのABETを参考に1999年に作られたのが 日本技術者教育認定機構 (Japan Accreditation Board for Engineering Education, JABEE) である。 JABEEでは、自立した技術者に必要な知識・能力として次の項目をあげている。
  1. 地球的視点から多面的に物事を考える能力とその素養
  2. 技術が社会および自然に及ぼす影響・効果に関する理解力や責任など、技術者とし て社会に対する責任を自覚する能力(技術者倫理)
  3. 数学、自然科学、情報技術に関する知識とそれらを応用できる能力
  4. 該当する分野の専門技術に関する知識とそれらを問題解決に応用できる能力
  5. 種々の科学・技術・情報を利用して社会の要求を解決するためのデザイン能力
  6. 日本語による論理的な記述力、口頭発表能力、討議などのコミュニケーション能力 および国際的に通用するコミュニケーション基礎能力
  7. 自主的、継続的に学習できる能力
  8. 与えられた制約の下で計画的に仕事を進め、まとめる能力
2番目の項目が倫理である。
大学において技術倫理教育をすべきという議論は、 国際化の影響を受けているのである。

技術倫理のトップページへ