企業倫理と技術者倫理

企業も倫理を守らなければ社会に受け入れてもらえない。 経団連では 企業行動憲章 を定め、公開している。 実行の手引 は52ページにわたる大部のもので、10条からなる企業行動憲章を 各条ごとに詳しく解説している。 このようなものが出版されるようになったことは大変喜ばしい。 しかし、企業倫理を支えるのは個々の構成員の倫理観であることも 忘れてはならない。

技術倫理は、主として鉱工業企業の倫理などの「組織の倫理」と、 個々の「技術者の倫理」の両方を含む。 そして技術者は「技術者の倫理」を確立するばかりでなく、 自らが所属する「組織の倫理」の確立にも努めなければならない。 この2つは車の両輪であり、どちらが欠けても問題を生じる。 企業の不祥事が続く今、企業倫理の確立は、企業のリスク管理の一環として 注目を集めているともいえる。 それが上っ面だけのものにならないことを切に祈るものである。

個々の技術者の倫理の確立に向けての取り組みは 企業倫理ほど組織立ったものとはなっていないように感じる。 このホームページが「技術者の倫理」を中心に取り上げている理由は、 これをなんとかしたいとの思いから来ている。

いわゆる 東電問題 に関し、日本原子力学会の倫理委員会は 提言 を発表している。 提言は2つあるが、その1つは 「東電の対応は企業倫理の確立としては評価できるものの、 技術者倫理の確立に向けては不十分である」 とするものである。 主要部分を抜き書きすると次の通りである。

今回の不祥事の責任が組織全体にあるという点については異論ない。 また個別の事案の実行者それぞれについて責任を問うことが適切でない という点についても同意できる。 ただ、責任追及とは別に、 個別の事案の実行者がどのような状況に置かれどのように振舞ったかについて、 詳細な事情をできるだけ多く調査し、公表されることを希望する。 公表に際し、個人が特定できない形にする、 関係者の同意を得るなどプライバシーについての配慮は当然払うべきである。
不祥事の責任を組織全体だけにあるという認識が定着すると、 関わった個人に免罪符を与えることになる。 責任を問うのは適切でないにせよ、 勇気を出せば不祥事がここまで大きくなることを防げた個人はいたはずである。 各事案の実行者は、自らの行為のどこに問題があったかを真摯に反省し、 それを公表することで再発防止を誓うべきではなかろうか。 またその公表内容は、 個人がどのような状況に置かれたら組織全体の大きな不祥事に発展しうるかを 教えてくれるものであり、他の事業者にも教訓として生かされるものとなる。
企業は、構成員が倫理に反する行動をとらないような環境作りに 努めることが必要であるのはもちろんのこと、 構成員の倫理観を高めるような教育努力も求められる。 なぜその構成員がそのような行動をとってしまったかを明らかにし、 それを教材として活用することで 「二度とそのようなことをする構成員が出ないようにすること」 も大切である。 これは決して個人攻撃ではない。

東京大学工学部で学生にディスカッションさせると、 再発防止の仕組み作りについては私も感心させられる提案が出てくる。 要するに、制度設計は巧みである。 しかし、「自分自身が倫理に反する行動をとるかもしれない瀬戸際で どのようにそれを避けるか」 については、なぜか迫力がない。 これはまだ技術者としての経験がないので仕方ないのかもしれないが。

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