技術倫理?工学倫理?

本講義録を作りにあたり、タイトルをどうするかかなり悩んだ。 英語なら Engineering Ethics である。 この日本語訳としてしっくりとくるものがないのである。

最初は、技術者が身に付けるべき倫理であるから「技術者倫理」としようとした。 しかし学生から見ると、技術者とは設計や製造に直接関わっている人であり、 私などのように大学にいるものは研究者だと考えるようである。 工学の研究をしているので、 私自身は科学者というよりはむしろ技術者だと思っている。 しかし学生には技術者というよりは科学者に見えるようである。 学生の感覚のほうが違うのではないかと思うのだが、 研究者や科学者を目指す学生には無関係と思われては困る。 そもそも科学と技術の間に境界線が引けるのか疑問だが、 世の中と関係のある科学を研究している科学者には 必ずこの倫理を身に付けてもらいたい。 また技術に関わりのある人なら、たとえ文科系であり 技術者ではない人にも、これに興味を持っていただきたい。

また、「技術者倫理」とすると個々の技術者の倫理観だけの問題ととられる。 技術者の職場環境、 すなわち技術者がその倫理観を生かしにくい組織の制度なども 重要な問題である。 これは「技術者倫理」との対比では 「組織倫理」ないし「企業倫理」と呼ぶべきものであるが、 それもここでは含んでいる。 「技術者倫理」では明らかに狭い。 そんなことから「技術者倫理」は不採用とした。

次は「工学倫理」である。 英語の Engineering を工学と訳したのである。 工学部で教えるものだからと考えるなら「工学倫理」は自然である。 しかし「工学」は学問の名称である。 「工学倫理」では、 工学を研究する者が身に付けるべき倫理ということになりかねない。 工学を学ぶ者が身に付けるべき倫理なら近いのだが、 それでも違和感がある。 学問を志している者より現場で働いている者に身に付けていただきたい ものであるからである。 その上、それは工学の中に体系立てられたものでもない。 学ぶというよりは、技術者が日常の経験を通して身に付けていくものである。 そのような理由で「工学倫理」も不採用とした。 なお、このへんの話になると、 「工学と技術の違いとは」とか Engineering と Technology の違いとかいった 一大論争になるかもしれない。

その他いろいろ考えた挙句、 一番意味の広い言葉が「技術倫理」だというのが結論である。 「技術」というと「医療技術」「農業技術」など もっと広い意味にとられるかもしれない。 それはそれで良く、そのようなものも含んだものとして 「技術倫理」という言葉を定着させたいというのが私の願いである。

技術倫理のトップページへ