功利主義の立場からの対処手段の評価

功利主義では 古典的なものでは割り切れない問題解決のために、 行為功利主義や規則功利主義 が提唱されている。それぞれの立場での対処手段の評価方法について述べる。

行為功利主義テスト

行為功利主義テストでは対処手段を次の観点からチェックする。
「その対処手段は他の対処手段より多くの功利を生み出すか?」
功利すなわち福利の総量を計るためには、 まずその行為によって影響を受ける者を全てリストアップする必要がある。 次にその被影響者ごとに、 享受する功利と我慢しなければならない被害とを できるだけ明確に査定する。 最後にその総和を求めることになる。
これを「行為功利主義テスト」と呼ぶのは、 後に述べる規則功利主義テストでは「行動のルール」の適否を 功利主義の観点から調べるものであるのに対し、 「個々の行為そのもの」を調べるものであるからである。 行為功利主義テストにおいて何を福利や被害の尺度に用いるかは 利用者が考えなければならない。 尺度に経済的価値すなわちお金を用いると、 次に述べる「費用対効果テスト」になる。
費用対効果テストも行為功利主義テストの一種であり、 行為功利主義テストは幅広く応用されている。 このため、うっかりするとこれを万能だと信じ込みやすい。 被影響者の範囲の決定、被影響者ごとの功利の算定は 必ずしも客観的に行えるとは限らない。 これが行為功利主義テストの限界であることを忘れないようにしなければならない。

費用対効果テスト

費用対効果テストでは、全ての福利や被害を金銭に換算し、 経済的価値の最も高い対処手段を求める。
この方法で評価する対処手段は、多くの場合、 国や地方自治体、企業等の施策である。 したがって費用のほうは「投資額」として比較的簡単に算定できることが多い。 問題は効果のほうで、 こちらに倫理的価値観により算定に差を生じるものが含まれてくる。 例えば次のようなものまで考慮するべきである。
純粋に経済的な価値 収入増、コストの削減等
人命、健康の換算価値 死亡、障害、疾病の増減
入院加療費等 上記のうち経済価値のはっきりしたもの
環境生物の価値 種の減少、生態系破壊の換算価値
環境そのものの価値 大気、水質、土壌等の汚染、気候変動などの換算価値
事故発生確率の増減 事故発生の直接の被害額(防止できればその価値)
社会的評価の価値 組織の社会的評価の高低による受益、損失

費用対効果テストについてはいろいろ参考書も出ているので、 そちらを参照されたい。 ここでは費用対効果テストに限界があることを強調しておく。 まず経済的価値に換算できないものは切り捨てられることになる。 そうならないように努力すべきだが、できるとは限らない。 次に上記の表に示したような諸々の価値を考慮するとなると、 その定量化は多くの場合簡単ではない。 第3に、費用対効果テストは社会全体としての 功利の増大方策を選び出すことにはなるが、 功利が不公平を生み出す可能性があることに対しなんら対策を示さない。 費用対効果テストとは別に不公平を減らす施策が必要なことを 忘れてはならない。
費用対効果テストの限界は、これを過去の多くの施策に適用してみれば はっきりする。 過去においては正しいとされた施策が現在では誤りとされる 事例はいくらでも見つけられる。 そこから教訓を読み取るようにしなければならない。

規則功利主義テスト

規則功利主義テストでは、 行為功利主義テストとは異なり、 個別の状況下での対処手段の功利の大きさは問題としない。 次の問に答えることになる。
「どのような規則(方針)に皆が従うと功利は最大となるか?」
すなわち個別の状況は無視し、一般論として手段を評価しようとする ものである。 個別の状況を考慮すると、「うそも方便」のようなことがまかり通る。 規則功利主義テストでは「うそは良いことか」を問うので、 当然その答えは「うそは功利を小さくし倫理に反する」となる。 ここまで一般化してしまうと、規則功利主義は功利主義ではなく、 義務論だともいえる。
しかし規則功利主義テストは、 規則として一般化はしなければならないが、 状況についても条件として加味することができる。 「内部告発は是か非か」でなく 「 チャレンジャー号 の乗組員の生命が危険にさらされているとき、 乗組員にそれを知らせるのは是か非か」のような 特定の問題もある程度の一般化で問える。 したがって対処手段を評価するに有効な方法である。

事例「不正な入札」 を材料に、行為功利主義テストや規則功利主義テストを使用した例を ここ に置いておくので、参考にしていただきたい。

技術倫理のトップページへ